電圧降下計算ツール
電圧降下とは?
電圧降下とは、配線の抵抗やインピーダンスにより発生する電圧の損失のことです。電気を送る際、配線には必ず抵抗があり、電流が流れると熱としてエネルギーが消費され、電圧が低下します。この現象を「電圧降下」と呼び、長距離配線や大電流が流れる場合に特に顕著になります。電圧降下が過大になると、機器の誤動作や効率低下、場合によっては故障の原因になることがあります。
電圧降下の主な原因
- 配線の抵抗値(断面積が小さいほど抵抗が大きくなる)
- 配線の長さ(長いほど抵抗が大きくなる)
- 電流値(大きいほど電圧降下が大きくなる)
- 配線の材質(銅より鉄の方が抵抗が大きい)
- 配線の温度(高温になるほど抵抗が大きくなる)
電圧降下の計算方法
電圧降下計算には「抵抗法」と「インピーダンス法」の2つの方法があります。このツールでは抵抗法を採用しています。
e: 電圧降下 (V)
L: 電線の長さ (m)
I: 電流 (A)
r: 単位長さあたりの抵抗 (Ω/m)
計算の手順:
- 配線の長さを入力(メートル単位)
- 流れる電流を入力(アンペア単位)
- 電線の断面積を選択(mm²単位)
- 自動的に電圧降下が計算されます
注意: 上記の計算式は単相2線式の場合です。三相3線式の場合は「e = √3 × L × I × r」となります。
電圧降下の許容範囲
内線規程(JEAC 8001-2018)の「1310-1」によれば、電圧降下の許容範囲は以下のように定められています:
配線の種類 | 標準電圧降下率 | 備考 |
---|---|---|
動力用電路 | 2%以下 | モーターなどの動力機器への配線 |
電灯用電路 | 2%以下 | 照明器具等への配線 |
特殊用途 | 1%以下 | 医療機器等の精密機器への配線 |
※ 電圧降下率(%)= (電圧降下値 ÷ 電源電圧) × 100
電圧降下計算
電圧降下計算の例
例題1: 単相2線式の場合
条件:
- 電源電圧: 100V
- 配線長: 50m
- 電流: 20A
- 電線サイズ: 5.5mm² (r = 0.0113Ω/m)
計算:
e = 2 × 50 × 20 × 0.0113 = 22.6V
電圧降下率:
(22.6 ÷ 100) × 100 = 22.6%
判断: 許容値(2%)を超えているため、より太い電線が必要
例題2: 三相3線式の場合
条件:
- 電源電圧: 200V
- 配線長: 30m
- 電流: 15A
- 電線サイズ: 8.0mm² (r = 0.00734Ω/m)
計算:
e = √3 × 30 × 15 × 0.00734 = 6.6V
電圧降下率:
(6.6 ÷ 200) × 100 = 3.3%
判断: 許容値(2%)を超えているため、改善が必要
電圧降下の詳細解説
抵抗法とインピーダンス法の違い
電圧降下計算には主に2つの方法があります:
計算方法 | 特徴 | 適用場面 |
---|---|---|
抵抗法 | 配線の抵抗成分のみを考慮した簡易計算 | 短距離配線、小規模設備 |
インピーダンス法 | 抵抗成分とリアクタンス成分の両方を考慮 | 長距離配線、大規模設備 |
※ インピーダンス法の場合、電圧降下の値はより正確になりますが、計算が複雑になります。
内線規程 JEAC 8001-2018 の要求事項
内線規程「1310-1」では、電圧降下に関して以下の基準が定められています:
- 電源から最遠端の負荷までの電圧降下率は原則2%以下とする
- 特殊な場合(医療機器など)は1%以下を推奨
- 幹線と分岐回路を合わせた電圧降下率は5%以下とする
- 短時間定格の電動機始動時は10%以下とする
※ 詳細は最新の内線規程をご確認ください。
電圧降下対策
電圧降下が大きい場合の対策
-
太い電線を使用する
断面積を大きくすることで抵抗を下げられます
-
配線経路を短くする
可能な限り配線を短くすることで電圧降下を抑えられます
-
電源電圧を上げる
高電圧で送電し、変圧器で降圧する方法も有効です
-
並列配線にする
複数の配線を並列に接続することで合成抵抗を下げられます
電圧降下による問題
-
照明器具の明るさ低下
10%の電圧降下で照度は約30%低下します
-
電動機の始動トルク不足
電圧10%低下でトルクは約20%低下します
-
制御機器の誤動作
電子機器は電圧変動に敏感な場合があります
-
機器の寿命低下
電圧低下による過電流で機器寿命が短くなる場合があります
電圧降下計算の活用例
使用場面
- ✓ 電気設備の設計・新設工事
- ✓ 配線工事の計画・見積り作成
- ✓ 電源品質の確認・改善提案
- ✓ トラブルシューティング・原因究明
- ✓ 設備増設時の事前検討
- ✓ 既存設備のリニューアル計画
電圧降下計算の注意事項
- ✓ 電圧降下は往復分を考慮した計算をしています
- ✓ 許容電圧降下は一般的に2%以下が基準値
- ✓ 長距離配線では特に重要な検討項目
- ✓ 電線サイズは規格に準拠したものを使用
- ✓ 温度上昇による抵抗増加も考慮が必要
- ✓ 接続部の接触抵抗も電圧降下の原因になります
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電気設備技術者からのアドバイス

「電圧降下は設備設計時に必ず確認すべき重要な要素です。特に大容量の負荷や長距離配線では、単純な計算式ではなくインピーダンス法を用いた詳細な検討が必要です。また、将来の設備増設も考慮して、余裕を持った設計をお勧めします。電圧降下を軽視すると、機器の誤動作や寿命低下など様々な問題を引き起こす可能性があります。」